大自然の恐怖 - Day 15

4 月 19 日

一本松を見て帰ってくる旅

この日は僕の人生において一番の自然の恐怖と美しさを目にした日になった。

ずっとこの目で見たいと思っていた一本松を見に行ったのである。

↓先だし一本松

往復 5 時間の旅を下記に綴る (ウルトラ長い予定)


出発。お昼の湯治を終えてホカホカの状態で、Google Map 上では 91 分で着くと書かれている道を選択してみる。
これが今回僕が自然や自分自身と向きあうきっかけとなった。

豊富温泉を出発すると早速ハルニレの木がある。

推定樹齢 300 年なんだとか。敷地内に入っても良いかどうか分からなかったので遠目から撮影した。

僕の選んだ道は森の中を通るルート。入り口付近にしっかりとキツネさんの足跡らしきものがあってテンションが上がった。

轍ができている。

そう言えば轍 (わだち) の読み方を知ったのはコブクロの歌がきっかけだな、そんなことをふと思いながら森に入っていく。

森の入り口を入ったところはこんな感じ。

自然大好きな僕にとっては至福の時間だった。

自然綺麗だな、北海道は絶景しかないな、と思いながらでずんずん進んでいく。

進んでいくと…?おや??

まさか目の前には野生の鹿がいた。

ぇええ?

慌ててスマートフォンのカメラで撮る。(超拡大しすぎて画質崩壊気味)

加えて持ってきたカメラのレンズを交換して撮る。(これも後から拡大した)

何枚か撮っているうちに気づかれてしまい、逃げられてしまった。びっくりさせてごめんなさい。

カメラ オタクの側面を持つ僕的には今のシーンを満足のいく画質で撮れなかった事が悔やまれる。

やっぱり安くてもいいので旅行用に便利ズームは持ってきておくべきだった。実際に豊富にくる前レンズを一本買おうかどうか悩んでやめたという経緯がある。

なぜなら今回北海道に来た目的は湯治する事であり、そこまで野生動物を撮る機会などないだろう、今持っているレンズを使って撮れる範囲で撮ればいい。そう思っていたからだ。

どのレンズを買って持ってくるのが正解だったかな?、などとぼんやり思いながら、鹿が走っていった方向に歩く。

20 - 30 分こんな道を歩く。

少し景色が変わり、道の左右が針葉樹林的な木々で覆われる感じの道になったところで、さっきの鹿のものであろう足跡を見つけた。

おお、こんなところまで逃げて来たんか〜びっくりさせてごめんやん、と思いながらふと周りを見渡すと、別の足跡があった。

この写真で伝わるかどうか分からない。分からないが、僕は直感的に熊の足跡だと思った。

理由はいくつかある。

まず第一に、ここまでで僕は人間の足跡を見ていない。先日雪が降ってから僕がここに来るまで、誰もこの道を通った形跡はないのだ。

第二に、僕の靴の足跡とは形が違いすぎる。大きくして見てみると分かるように、足跡として体重がかかる部分とは別に、進行方向に爪痕のようなものがあるように見える。

第三に、複数ある足跡のいくつかは、僕が進む道を横断しているのだ。つまり、僕のいる地点から見て右から左の小川的なやつへ向かうために道を横切った感じの足跡になっている。
29 年間人間をやってきた僕の感覚では、こんな森の入り口から 30 分以上離れた地点に別のルートから来れるような人間はいない。

一気に怖くなった。

しかし、ここまで 30 分以上歩いたのが無駄になるのも嫌だった。

幸いにも僕が持ってきたかばんには、いつも熊よけの鈴が入っている (なんで?)

説明しよう!僕が愛用しているのは MindShift GEAR の ROTATION 34L (アフィでもなんでもない) というネイチャー フォトグラファー専用に作られた、小屋泊登山も出来てしまう感じのカメラ用バックパックなのである!
昨年家族と三重の御在所岳に登山に行った際 ROTATION 34L を背負って行き、父親が熊よけの鈴をバックパックに付けていたのを見て「玄人感あってええやん」などという超にわかな心を全開にして、下山した足でモンベルルーム御在所店に寄り購入して以来、いつでも鈴を使えるよう ROTATION 34L に鈴を忍ばせておいたのである!!!! (急になんやねん)

即座に熊よけの鈴をカバンにつけ、この後はチリンチリン言わせながら目的地に向かうことにした。

よく周りを見てみると、熊の足跡だらけだ。その中に鹿の足跡も混ざっている感じ。

この時から僕の反省が始まる。

なぜこの道を選んだのか。

舗装されている道の方が絶対に歩きやすいし速く着いた。いくら自然が好きとはいえ初めての道を Google ストリート ビューもできないような地元の人が車でしか通らない道を選ぶのはリスクが高すぎたのではないのか。

豊富温泉は大自然の中にある小さな街だ。なぜ野生動物と隣り合わせの暮らしだともっと注意しなかったのか。

森の入り口付近では雪解け水が流れてきていた。鹿を見る前だって雪で歩きにくかった。Google Map が示した道は通常時の雪が積もっていないようななんの支障もなく歩ける場合のルートであって、雪解けの水で濡れている轍か、道の中央の轍に挟まれてまだ雪が溶けていない場所を行くかどちらかを選び続けることになることを想定するのは容易だったはず。いつもの革靴を履いているからといって見くびりすぎでは無いのか。(いつもこの革靴を履いて海辺でずぶ濡れになりながら写真を撮っている)

ここでもし迷子になったり気を失ったりしたらどうなるのか。誰かが通る頃には命がある保証はないとどうして考えられなかった…

反省点はいくらでも出てくる。大自然の真ん中にいる恐怖もあったが、自分の力でどうにかすることはできないのでひたすらリスク管理が甘かった自分と対話しながら歩き続けることにした。

しばらく歩くと道が上り坂になった。そこまで急勾配ではないが、歩いていると息が上がる感じ。

初めての待避所の標示がある。滅多に車が交差することがないのだろう。皮肉なことにクマさんだ。

さらに進むと、開けた場所に着いた。どうやら山の頂上付近まできた模様。

枝葉がない幹だけの木が一本存在していた。厳しい環境を耐え抜いてきたのだろうか。

絶対クマさんやんって足跡。これで何度目だろう。

しばらく歩くと林のような場所を抜けて建物が見えてきた。

人間の活動が行われる場所を見て急に安心した。
自然に対して大した知識もなく、いつも持っているモバイル バッテリーすらも置いてきてしまい携帯の電池が切れたらおしまい、口にできるものといえば来る前に間に合わせで買ったポカリスエット 1L だけの僕に、大自然は怖すぎた。

1 本松までもう少し。

残りの道はこんな感じの草原?丘?の中の道を進む。

かれこれ歩き始めて約 2 時間半。ついにこの景色を拝むことができた。(これだけ気合い入れてカメラで撮影したやつ)

大自然の中でひっそりと立ち続ける木に威厳を感じる。かっこいい。

こっちは携帯で引きめに撮ったやつ。

…さて。ここから歩いて帰る。

帰りは絶対に舗装された道を歩きたい。往路で感じた恐怖はもうこりごりだ。暗くなってきたし街灯がない場所を歩くには熊よけの鈴 1 つではかなり心細い。

こんな道を延々と歩く。

「6 Km 歩く」という文字を見ると苦痛な感じがするが、意外にも僕はこの帰り道を楽しめた。

普段一人で写真を撮りに行く時、2 時間かけて都内から神奈川県の海辺まで行ったりする。この移動時間のうち特に歩く時間は、自分との対話をする時間にしている。

過去のあの時何がきっかけで楽しかったのか、どんなことが原因で苛立ったのか、何が良くて今の満足する状況になっているのか、逆に今自分が潜在的に不満に思っていることはなんだろうか… (急に自分語りをしていくスタイル)

ここは北海道の北の方で人間など歩いておらず頼れるのは自分だけ、時間が経つにつれて周りは暗くなるという恐怖。周りは初めての絶景だらけという状況が作り出す心境は、これまでにないほどに自分との対話が捗った。なぜだろう。

これもまた、いつかどこかへ歩いているときに自分との対話で自分なりの結論を出すのだろう。(なんかもしかしていい感じにまとまった?)


今日は一本松という絶景を写真に収めることができてとても満足だった。

往復 5 時間の旅路も自然への理解や恐怖も、無事に帰って来れた今となってはいい学びだった。

時間が有り余った今回だからこそ歩く時間があったし、だからこそ思う存分自然も楽しめた。ありがとう北海道。

写真キチガイとして唯一の後悔がある。持ってきたレンズについてだ。
今回、湯治がメインということで遠くをとれるレンズを持ってこなかったが、これは間違いだった。今日の鹿さんとの遭遇で、僕の夢だった「北海道の野生動物の写真を撮る」という事が叶う状況にあった。実際に写真は撮ったので叶ったといえばそうなのだが、自分の満足のいく画質での撮影は出来なかったというのが本音だ。次の旅行までにレンズを一本増やしておきたいと思った。(これを言い訳にしてレンズを増やしていく)


この日は料理をする元気など全く残っておらず、豊富温泉に帰ってくる頃には脳内がふれあいセンターのラーメンで支配されていた。

先日は濃厚醤油ラーメンだったので今日は味噌ラーメン。

先日の濃厚醤油ラーメンとは違い、野菜がたっぷり入っていて美味しかった。ありがたい。

湯治 14 日目

残すところ 1 週間だ。

よくなったところ、よくなってないところ、豊富温泉に来てから少し悪くなったところなど色々だが、引き続きどんな影響があるか見ていきたい。